淋々と泣きながら 【マリちゃんの秘密 その2】 はじけてとんだけど
|
エビの丸焼きとミクスチャー鍋で満腹になったぼく。
食後のコーヒーを飲みながら一服していると、マリちゃんの妹は帰るという。
それが賢明。
クククッ、これから二人でまったりするんだよ。
おメーは早く家に帰ってシルバニアファミリーで遊んでな。
それにしてもあの妹はタダ者じゃないぞ。
だっていきなりモヒカンの外国人が自分の姉ちゃんの部屋にいたら怖いだろ、普通。
そんで会って5分も経たないうちにジャスコ行って、平気で一緒に飯食っちゃってるんだもの。
たとえ五分刈りのデヴィ夫人に会ってもクスリとも笑わないだろう。
ベッドでごろごろしていると、マリちゃんがこんなことを言った。
「マリちゃん、ベビーいるデス」
これ、2回目に会った時にも言われた。
んで、「またまた~、ジョークやろ?」って言うと、写真を見せてきた。
恐る恐る顔を覗き込むと、「ジョーク。お姉さんのベビー」と言ってきた。
ほっとしたが、このジョークを度々言ってくるので、心の中では
「おんなじことばっかやっていいのはラモーンズだけなの!」って思ってた。
しかし、今回は様子が違う。
いや~な予感がした。
「マジ?」
「・・・・・ ハイ。今2歳デス」
絶句。
「だ、旦那はおるん?」
「ないデス。フィニッシュ・・・」
別れちゃったってことか。
なんでも元旦那のタイ人は子どもができると他の女をつくってどっかに逃亡。
生まれた子どもの養育費は一切払わない。
いろんなところで子どもをつくっちゃってるらしい。
貴様、モリアオガエルか?
子どもはおじいちゃん、おばあちゃんが育てている。
それでマリちゃんはバンコクのゴーゴーバーで働き、お金を送っているのだ。
ぼくは何て言葉をかけたらいいか、わかんなかった。
「子どもはマリちゃんに会えへんからさみしいんちゃうかな」
「ダイジョウブ。おじいさん、おばあさん、一緒ダカラさみしくないデス」
「そうじゃないのっ!子どもにとって大事な時期なんやからお母さんは一緒にいなきゃダメ」
泣きはじめるマリちゃん。
「泣いてもダメなのっ!いい子に育たないよ、そんなんじゃ!あんな店は辞めるべき!」
号泣するマリちゃん。
「なんかガッカリだよ・・・。マリちゃんがそんな子だったなんて。帰るっ」
ぼくは部屋を飛び出した。
タクシーをつかまえてカオサンに向かった。
なんかもうわけがわかんなくなっていた。
いつの間にかタクシーのおっちゃんに気持ちをぶちまけていた。
「おっちゃん、聞いてよ。さっきガールフレンドが子どもがいるってカミングアウトしてきたんだ」
「彼女はなんの仕事をしてるんだい?」
「ゴーゴーバー」
「そしたら、子どもがいるなんてよくある話だよ。 気にすんなよ」
「気にすんな?おれの気持ちは徳川家光でもわかんねーよ!
おれはスピニングリールだって知ってるし、ピクルスだって食べられるんだよっ!」
「・・・。 まぁ落ちつけよ。 いつかは忘れるって」
「いつですかぁ?何時何分?何時何分?地球が何回まわった時?」
タクシーのおっちゃんには悪いが、黙ってることができなかった。
さくらGHに戻ってきて、ベッドでふて寝をしていた。
つーか、おれのバカっ!
もっと現実を見ろよっ!
マリちゃんだってゴーゴーバーで働きたくて働いてるわけじゃないやろ。
普通の仕事で子どもを育てていけるんなら、とっくにそうしてるっつーの!
小遣い欲しさに援交やってる日本の女子高生じゃないんだよ。
おメーはマリちゃんの何を知ってるっつーんだよ。
タイって国の何を知ってるっつーんだよ。
何のために仕事辞めて、旅に出てきたんだよー!
なんでマリちゃんがカミングアウトしたのか?
そんな必要はなかったのに。
黙ってればよかったのに。
それでも告白したマリちゃんの気持ちをくんでやれっつーの!
公衆電話に走った。
とにかく謝ろうと思った。
マリちゃんは電話に出てくれなかった。
はぁ、なにやっちゃってんだ、オレ・・・。
帰りたいけど 帰れない もどりたいけど もどれない
そう考えたら 俺も 涙が出てきたよ