ラムに捧ぐ
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それは昨年5月に亡くなったラムにバカルディをおごってやることだった。
亡くなってしばらくはラムの働いていた店の前に献花台のようなものが設置されていたようだが、それはもうなくなっているらしい。
そこで、せめて店に行ってラムに一杯おごり、成仏してほしいなぁって思ったわけである。
以前からの知り合いのSさんと2人で夜になるとまっさきにラムの店に向かった。
店に入って席に着くと、Sさんはタイガービールを注文。
「アナタは?」
「ハイネケンとバカルディ・マナオ(レモン)」
「はぁ?2本飲むの?」
「うん。2本持ってきて」
「タイガービールとハイネケンとバカルディ・マナオね。3本ね」
怪訝そうにカウンターに戻っていくオーダー取りのねえちゃん。
そりゃそうである。
カオサンからマラソンでここまで来たわけじゃあるまいし、一気に2本も頼むヤツなんかいるわけがない。
ビールが運ばれてきてSさんと乾杯。
そしてバカルディの瓶にもカチン。
こいつオカシくなったんか?
この奇妙な行動をとる日本人をますます不思議そうに見ているゴーゴー嬢たち。
そのうちの一人が「コンバンワ~」とワイをしながらこっちにきた。
「名前は?」
「myだけど」
「なんで2本も飲んでるの?のど渇いてるの?」
「ちがう。ラムって子知ってる?その子におごってあげようと思って・・・」
「知らないナ。どんな子。何番の札付けてる子?」
「もう働いてないんだ。死んじゃったから」
「あっ・・・」
どうやらわかったようで、ささーっと退散していった。
ハイネケンを飲みながらラムのことを思い出していた。
最後の最後までいろいろあったっけ・・・。