
カンチャナブリ観光1日目終了。
「あ~、腹減った。宿に帰ってメシ食おうや」
「じゃあ、バスターミナルんとこのセブンイレブン寄っていいすか?タバコ買いたいんで」
各々セブンでガムとかタバコとかを買い、店を出ると・・・。
店の外でロールケーキをほおばっているモンモン。
「これからメシ食おうってゆったばっかやのに、何で今そんなもん食うわけ?(怒)」
「ロールケーキって甘いから・・・」
はい、もういい。
おメーは、ほんとヤクザみたいな刺青がびっしりはいってるのに、「~だにゃん☆」なんてメコン川に流氷が流れつくような言葉遣いをしたり、一人でコンビニに行けなかったりと、見た目と言動がちぐはぐ過ぎるんだよっ!

宿に戻ると共有スペースに2人日本人がいた。
一人は20代の女の子。
タンクトップとタイパンツをラフに着こなし、日焼けした褐色の肌が旅慣れた印象を与えた。
「こんにちは~」
彼女はアヤちゃん。
一人で東南アジアを旅しているのだった。
マレーシアを北上しタイにたどり着いたらしい。
もう一人は40~50代のおっさん。
黒ぶち眼鏡をかけ、頭はド金髪のやくみつるのようなオッサンだった。
お互いに自己紹介をし、ぼくらは宿でメシを食った。
ぼくはカナーンゲストハウスに結局1泊しかしなかったのだが、とてもよい印象がある。
それはオーナーのおばちゃんがとても親切だったこと。
そしてもうひとつはこの共有スペースである。
8畳ぐらいのスペースで、床はたしか細い竹が敷き詰めてあった。
三角まくらが置いてあり、そこにゴロンとなって本を読んだり手紙を書いたり。
それが非常に心地よかったのである。
ラオス・ルアンパバーンのコールドリバーゲストハウスもそうだったが、共有スペースが心地いいってのはいい宿の条件だ。
さて、メシを食ってみんなでなんだかんだ話していると、誰かが「今日ワールドカップの日本戦じゃね?」と言いだした。
ぼくはサッカーに興味がないので、そうなん?ぐらいにしか思っていなかったが、山ちゃんはどうしても見たかったらしい。
あいにくぼくらの部屋にはテレビがない。
「おれの部屋にはテレビあるんだよ」と、やくみつる。
「じゃあ後から部屋行くんでみんなで日本戦見ましょうよ!」と山ちゃん。
よかったね、みんなで応援できて。
「いいよ。でも一人50バーツ、おれに払ってね」
「へ?」
「今日日本戦あるからわざわざテレビのある部屋にしたんだよ、おれ。50バーツでいいよ」
しーん・・・。
い、いかーん!
恐る恐る振り返ると・・・。

し、しぎゃぴー!
般若が魔闘気をまとっておるっ!
「ま、まぁ、とりあえず部屋に戻ろうなっ、山ちゃんっ!ほら、おれさっきセブンでかっぱえびせん買ったやん?それ、みんなでつつこうや。やめられないよ、とまらないよ!」
山ちゃんをなんとか部屋に連れて帰ってきた。
「myさん、あいつのアバラ骨を全部逆向きにカールさせてやろうと思うんですけど」
「落ちつけよ。ああいう変なやつもなかにはいるんだよ。放っておきなよ」
「どっか近くに金属バットかつるはしって売ってないすかね?もう店閉まってる?」
「バ、バカっ!恐ろしいことを言うんじゃないよっ!」
それにしても、いい歳してイタイおっさんである。
でも、意外とああいうタイプって多いんやなぁ。
割り勘で居酒屋や焼き肉なんかいくと、人より1杯でも多く、1枚でも多くって考えちゃう人。
自分に不要なものでも、タダで人にあげると損した気分になっちゃう人。
情報でも物でも共有することは負けだと思ってる人。
独り占めすることで優越感を得て、得意になってる人。
上司や先輩で、居酒屋行って散々説教たれるくせに、会計になったらきっちり割り勘。
最低過ぎるww
「おメーも飲んだり食ったりしたんだから割り勘な」
だから部下がついてこないんだね、納得。
前も書いたけど、バックパッカーって基本的に金がない。
だからみんな節約しながら旅をしてるんやけど、ほんと節約オタクには参るなぁ。
150バーツでサンダル買って戻ってくると、「えぇ!?中華街なら130バーツで帰るのにぃ」とか言っちゃう人。
はいはい。でも、日本円で60円しか違わないから。
しかも中華街ってバス乗らないと行けないところだから。
ちょっと安く買えるところを知ってる自分に物凄い優越感を感じちゃってるんですね。
そんでそういうヤツに限って「これからサンダル買いにいこっと」なんて言っても、安く買えるところは教えない。
情報をタダで提供するのは損した気持ちになっちゃいます病を患っているのである。
やくみつるはたぶん重症やな、一人50バーツ払えってねぇ・・・。

職場にFさんという人がいる。
ぼくより6つ上の人で、仕事にめちゃくちゃ厳しい。
注意する言葉もキツイので、仕事を始めたばかりの頃は「うるせぇなぁ」と思っていた。
自分より目上の人にでも、いい加減なことをしていれば怒鳴る。
しかし、注意する際きちんと理由を説明してくれるし、Fさんは仕事にプライドをもってやっているのがヒシヒシと伝わってくるので、だんだんいい人なんだなと思うようになった。
ある日、常務から「今日からさ、Fと組んで仕事をしてほしいんだけど」と言われた。
Fさんがぼくを指名しているらしい。
いい人だなとは思っていたが、組んで仕事をするとなると、またうるさく言われそうでちょっと不安だった。
恐る恐るFさんのところに行くと、「おう。お前が一番覚えがよさそうやったで指名したわ。おれは仕事がいい加減なヤツとは絶対組みたないもんでな。悪いけど手伝ってくれ」と言われた。
ちょっとうれしかった。
それからいろいろ話すようになり、お互いの趣味がめちゃくちゃ合うことが判明(Fさんに「お前スラッシュメタルとかデスメタルとか聴く?」と尋ねられ衝撃を受けた。Fさんは小学生の子どもがいる、仕事に超厳しいおっさんである)。
今では二人で超ベタベタしているのである(キモチ悪い)。
そんなFさんに先日釣りに誘われた。
ガソリン代やエサ代、コンビニでの買い物、その他諸々をとりあえずFさんがすべて立て替えておき、最後に清算することにした。
その日は大漁だった。
最後にファミレスでメシを食って解散となった。
「じゃあ今日の清算しましょうか?いくらでした?」
「うーん、ここのメシ代、お前が払ってくれ。もうそれでええわ」
「えっ、そしたらFさんがめちゃ払い過ぎやないですか」
「ええよ、ええよ、今日はオモロかったし。明日遅刻すんなよ~、じゃあな」
そういってFさんはお金を受け取らず帰って行った。
池波正太郎がエッセイの中でこんなことを書いていた。
人間の気持ちっていうものは、いくら自分で思っていても、何か形にしないと通じないんだよ。
だから、煎じつめていけば、男の財布ってものはそのためにある。
「男の財布」って粋な言葉だよな。
割り勘にするのはFさんの美意識に反することだったのだろう。
仕事への姿勢といい、下の面倒見のよさといい、ぼくはFさんの男の美学を感じた。
自分は損したくない。
利益は独り占めしたい。
ダンディズムのかけらもない生き方だと思う。
でもそんな生き方さえ、「その人なりの生き方」として認められている風潮がないだろうか?
やくみつるは一人でワールドカップを見て、楽しかったのだろうか?
サッカーの醍醐味ではなく、テレビを独り占めできたちっぽけな優越感の方しか味わえない人なんだろうな。




